バクマンの真面目な批評

みなさんはあの作品の革新的な側面をどれほど理解して読んでいるのでしょうか?
バクマンはジャンルに分けると大まかには”漫画家マンガ”ということになるでしょう。
古くは「まんが道」、最近では「アオイホノオ」がこのジャンルに相当すると思われます。
ここで既に、バクマンは左記の2つの作品とは明らかに違う点があります。
それは"作者の実話を元に書いたシナリオではない"ということです。
まんが道」も「アオイホノオ」もそれぞれ作者が漫画家になるまで(漫画家になってから)の日々の生活や漫画にまつわる経験をベースにしていますが、バクマンに関しては多少なりとも経験があるからこそ書ける部分もあるのでしょうが、あくまで架空の少年二人(実際にこの作品自体、原作者と作画者の二人で作られていますが、二人が学生の頃から漫画家ユニットとして活動してきたという事実があるわけではありません)が漫画家として活躍するという設定で書かれています。
この点が違うことで何が変わるかという問題ですが「まんが道」「アオイホノオ」に共通して使われている、実際に存在する過去の漫画作品を模写し”作者自身が影響を受けたという表現を既存の漫画を自分の作品の中に取り込んで表現する”という方法をバクマンは(まったく使っていないわけではないが、作品の表現効果としてはまったく)使っていないのです。
この表現方法は漫画家マンガには欠かせない技法の一つなのです。
まんが道」に関しては、ほぼ一作品丸々他の漫画家の作品を模写しているケースもあります。
ですが、バクマンは代わりに架空の作品を引き合いに出して「まんが道」や「アオイホノオ」のそれと似たような表現を賄っています。
ここが今までの漫画家マンガにはあまり見られなかったオリジナリティではないかと思います。
そしてバクマンがフィクションとして書かれている理由がもう一つあります。
それは、今の漫画業界に対してのアンチテーゼ的な表現を作品の中に盛り込みやすいという点です。この作品は週刊少年ジャンプで連載されていましたが、人気連載にも関わらず、登場人物が少年ジャンプの編集部に対して”効率的、機能的でない点などを具体的に指摘”(同時に漫画編集者の献身的な部分なども描かれています)していたりします。
こういった行為は作品がフィクションであるからこそ自然に盛り込む事が出来る表現であり、漫画業界に対する批評文をどこかで長々と書いたりするよりも効果的であると言えます。
もう一つ、この作品で注目すべき点は、作品のストーリー、登場人物の特徴です。
バクマンの原作者はかつて作画も兼ねて、少年ジャンプで連載作品を持っていたのですが、思うような人気を得られず短期間で打ち切りにされてしまう(バクマンの前作「デスノート」でこのタッグでは既に成功を収めていますが、あれは僕の見解ではシナリオが途中で破綻したと思っているのでここではあまり触れないことにします)という苦い経験をしています(バクマン本編にも思い半ばにして漫画家を諦めるキャラクターが出て来たりします)。
その経験から原作者はどうすればこの日本一の少年漫画誌で人気連載漫画を作り出す事が出来るのか徹底的に研究をしてこの作品制作に臨んでいるのです(その研究過程さえもストーリーの中にうまく盛り込んでいます)。
原作者はまず自分の作画技術に見切りを付け、他の作画者に絵を委ねることにしました。そして原作ストーリーはかつて少年ジャンプで人気を獲得して来た作品のベースや設定などを踏襲しながら練られているのです。そう、このバクマンの中で語られている人気漫画を作るハウトゥー談義がそのままバクマンの物語形成に活かされているのです。
たとえば人気ジャンルの一つとしてバトル漫画があることを何人かの登場人物が発言していますが、バクマンは主人公二人が他の新人漫画家たちとの人気競争の中で漫画家として成長して行くバトル漫画の要素を持っています。
それからもう一つ人気ジャンルとして挙げられる恋愛もの、これもバクマンのストーリーのもう一つの軸として漫画バトルと並行して進行しているのです(しかもわかりやすいくらいピュアネスを誇張したようなエピソードが複数展開されています)。
その他にもライバル漫画家同士の助け合いに見られるスポ根的な要素や、ギャグ漫画のようなユーモアも随所に盛り込んでいます。そして登場人物のキャラクターもいわゆる王道パターンに沿って作られています。
例えば主人公のライバル漫画家の中に熱血的な人物がいたり、負けん気が強いのに実はとても繊細な人物がいたり、もちろん典型的な天才少年漫画家も登場します。特にその天才少年は所々で重要な発言をすることで、何となく今後のストーリー展開を示唆する役割を担ったりしているのです(編集者の中にも何人か似たような役割の人物がいます)。そういった何かを悟ったような人物は人気漫画に少なからず登場するキャラクターです(ドラゴンボールでも亀仙人やカリン、神、界王など悟空の成長に合わせ様々なストーリーテラー的存在が登場します)。
このように作品の中で人気漫画のセオリーについて議論させながらバクマンそのものがそのセロリーに沿って進行して行くという実験性に富んだ漫画作品であるわけです。